カメラのバトンを始めた

日常の中でちょっとでもわくわくすることをわたしがつくり出せたらいいなと思った。

わたしはフィルムカメラの空気感と自由さが好きだった。

最高の瞬間にレンズを通った光が化学反応で焼き付けた粒子はやっぱり最高で、フィルムは良いと思う。

それは光が足りずぼんやりしていても逆光だろうがピントが合ってなかろうがなんでも、そこにある空気を収めた写真は愛しいと思う。

だから知らない多くの人とゆったりとフィルムカメラを回しあう遊びを始めた。


<遊び方>

使い捨てのフィルムカメラを誰か一人に渡し、好きな写真を撮ってもらう。

そのカメラをまた誰か一人に回してもらい、これを繰り返す。

最終的に27枚目を撮り終えた人がカメラの裏側に記載してあるわたしの連絡先に知らせ、カメラを返却してもらう。

それをわたしが現像して楽しむ。


<始めた理由>

①ワクワクを共有したい

知らない人からカメラを回されるという非日常的な出来事を起こしたい

②知らない誰かのカメラを手にしたとき人は何を撮るのか知りたい

友達か、好きな風景か

③わたしがカメラを渡したらどれくらいの範囲にまで渡るのか知りたい

どこまで渡ったかは写真から推測することしかできないけれど、遠くまで行ったら面白いなあ。


<バトンの記録>

2019年11月5日(火)

写ルンですを2台用意する。

小さな紙にバトンの説明とわたしの連絡先を書いて、濡れてにじまないようにセロハンテープで張り付けた。

「お好きに写真を1枚撮って、どなたかおひとりにこのカメラを回してください。27枚撮り終えた方はお手数ですが下記の連絡先までお知らせください。」

これから旅する2台に「ねんねこ号」と「しもやけ号」という名前を付けた。

27人回るのにどれくらいかかるのかな。

年内に帰ってきたらいいな。

回されなくて捨てられたり誰かの部屋に放置されたりしてしまうかもしれないから過剰な期待はしないようにしよう。

どこの範囲まで回るだろう。大学の内か外か。

それは写真を見て推測できるかな。

カメラの裏面に記載されたわたしの連絡先に知らせてくれる人はどんな人だろう。

その人は知らせるメールをくれるとき、どういう気持ちだろう。

中学生の修学旅行で初めて写ルンですを使ったときのことを思い出した。

正しく使えずほとんど写っていなかった。

小学生のとき友達と回し合った交換日記とか、クラスで仲良くなりたい子に手渡したプロフィール帳のことも思い出した。


2019年11月8日(金)

写ルンですを鞄に入れてから渡せないまま3日がたった。

早く帰ってきてほしいから早く誰かに渡さないといけないのに、誰にいつ渡そうかとか考えていたら金曜日になっていた。

土日を挟む前に渡そうと思った。

ねんねこ号を所属している軽音サークルの友達に昼の部会で渡した。

ちょうどその日はサークルの運営をしている代が終わる日で、1枚目を部会の終わりに撮影してるのを見た。

しもやけ号は知らない人に渡そう。

授業の終わりに大学の食堂に行った。

目が合った女の人に話しかけた。

どきどきした。青いセーターの似合う人だった。

わたしが説明して写ルンですを渡すと、女の人は特別驚きも警戒もせず「分かりました。大丈夫です。」と返事をくれた。

素敵な人なのでどんな写真を撮るのか気になった。

写ルンですを渡された2人は今後誰に回すだろうか。


2019年11月14日(木)

ねんねこ号が21枚取られた時点で軽音サークルの部室のテーブルの上に放置されているのを見つけた。

サークル内で回すカメラだと捉えてしまったのかも。

これからはせめて始めの一人はわたしと同じコミュニティに所属していない知らない人へ回そう。

同じ部室を本棚で仕切って違うサークルが所有しているのだけど、本棚の向こう側にいた違う軽音サークルの知らないひとに渡して再出発させた。


2019年11月16日(土)

夜メールが来た。

「こんばんは。カメラ撮り終えました。」というメッセージと最後には送り主の名字が添えられていた。

びっくりして飛び起きた。

たまたま、本当に偶然だけれど、メールの送り主はわたしが大学で美術科の展示を見ているときに素敵な版画を作る人だな、と思っていた人だった。

今まで会ったことはなかった。

その後のメールのやり取りによると撮り終えたカメラはねんねこ号らしい。

あの軽音サークルの部室で放置されたり再出発させたりしていろいろ心配だったほうだ。


2019年11月18日(月)

ねんねこ号を撮り終えた美術科の人と大学内で待ち合わせした。

顔を知らないので、緊張した。受け取れた。

おかえり、やった~。


どのようなルートを辿ったのか知らないけど旅をしてきたねんねこ号。

8日出発で18日に帰ってくるのはかなり早いと思った。

その日の予定が終わってすぐに写真屋さんに持っていった。

これを受付で渡すのが惜しかった。シールで唯一無二になるように飾り付け、27人の人に渡った思い入れのある可愛いカメラを手放したくなくなった。

写真屋さんで使い捨てカメラを渡すとネガとデータCDになって帰ってくる。

カメラ本体は返ってこないのだ。

夕方現像したねんねこ号のデータを受け取った。


<ねんねこ号の中身>

ギター、ベース、大乱闘スマッシュブラザーズ、誰かのつむじ、ピースサイン。

そのコミュニティ特有の空気感。

浮かび上がる熱烈中華食堂 日高屋。

ぬいぐるみと枕元。

写真をみていて楽しかった。

知らない間に軽音サークルの部室を小さくくるくる回って、大学を出て街へ行き誰かのおうちに行っていたねんねこ号。

27人の写真を撮ってくれた誰か、ありがとうございました。

掲載にあたり、室内でフラッシュを焚かずに撮られた写真は全体的にグレーで見えないものが多く、そういったものは省きました。

人の顔はモザイクをかけましたが、もし写真に写っているひとで欲しい自分の写真がございましたらお申し付けください。



2019年11月21日(木)

新しく「やさしさ号」と「ときめき号」の2台が出発したよ。

今度は「好きな風景」という若干の制限を付けました。

いってらっしゃい~。



遊んだ人 ぐうぐうねんね (とねんねこ号ご利用の27人のだれか)

連絡先 guuguunenne@gmail.com

よ こ し ま

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